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テクノアドバイザー奮闘記

「第3回:3D-CAD/CAMによるNCデータ作成」

新川 真人

第2回の奮闘記では、3D-CADを活用したCADデータの作成について紹介しました。前回の内容をまとめると、「図面とはモノを作るための重要な基礎データ」であり、3D-CADはそれを実現するための強力なツールである!となります。

1.工作機械の動き

 前回の奮闘記でも書きましたが、NC工作機械による加工のためには、NCデータが必要となります。これは工作機械の動きを制御するプログラムのようなものです。では、このNCデータを作成するためにはどうすればいいのでしょうか。
 皆さんが授業でプログラミングを習う際、キーボードから様々な指令文を各プログラム言語のルールに従って直接入力すると思います。NCデータを作成するときも基本的には同じです。ただし、加工したい製品の形状によってはそれが大変困難な場合もあります。
 少し話は外れますが、例えば皆さんが自分の腕を左上から右下に真っ直ぐ移動させようとします。そのとき、当然腕は直線的な運動をすることになります。腕が移動した軌跡を頭にイメージしてみると、大変滑らかな運動軌跡が浮かびませんか?これは腕を運動させようとしたときにそのために必要な腕の運動系の自由度が高いために実現できていることです。では、この動きを工作機械で実現しようとした場合にはどのようになるのでしょうか。
 工作機械に限らず,機械を運動させるときには目標とする動きに合わせて「軸」というものを作ります。そしてその軸は、基本的には全て直線的な動きしかできません。
 先ほどの腕を斜めに真っ直ぐ移動させる場合でも、その軌跡は水平方向(X軸)と垂直方向(Y軸)の組み合わせであるといえます(ベクトルの合成と同じです)。つまり、工作機械では斜め方向の動きをさせようとしたときには2つの軸が必要になるということになります。
 図1は工作機械の斜め方向の動きを模式的に表したものです。移動開始点(X0,Y0)から終了点(X1,Y1)に真っ直ぐ移動するとします。工作機械でこの動きをさせようとしたときには、X軸をX0からX1へ、からY軸をY0からY1へと2つの軸を動かさなければいけないことが分かるかと思います。
 では次に、図中の直線軌跡を目標とし、この直線に沿うようにして工作機械を動かそうとしたときにはどうしたらいいのでしょうか。
 前述したように、各軸は基本的に往復の直線運動しかしません。そこで、目標とする軌跡を補間(授業で習いましたね?!)し、それにあわせて各軸を最小単位長さで制御するという方式が採られます。軌跡が曲線である場合も同様です。 少々乱暴にいってしまえば、「実際には各軸がカクカクと動いているが、大変短い間隔で動いているから見た目には滑らかな斜めの線や曲線を描いているようにみえる」ということになります。
  図1 NC工作機械の動き(補間)
 さて、話が外れると書きましたが、なぜこんな話をしたかといいますと、NC工作機械の動きの制御の基本を知ってもらう方がCAMの重要性を分かってもらえるとおもったためです。
 NC工作機械の動きについての説明を読んだとき、「じゃあ、この細かい点(数値)をいちいちプログラムに表記しないとダメなの?」と思った人は鋭いです!!その疑問に対する回答としては、ズバリ「YES」です。簡単な形であれば関数電卓を使って制御点の数値を算出し、プログラムとして入力することは可能でしょうが、実際には大変複雑な形状をしています。そのような形状の制御点にしても、現在センターにあるNC工作機械は最大で5つの移動軸を持っています。つまり、任意の制御点は5つの座標系で表現されるということです。ここまで複雑になると関数電卓で求めることは事実上不可能です。そこで活躍するのがCAMです。

2.CAMとは

 CAMとは、「Computer Aided Manufacturing」を意味し、日本語に直訳すると「コンピュータによる製造支援」となります。
 NC工作機械に限らず、材料を削って形状をつくるということは、要するに材料を削るための工具を目的の形状に併せて動かすということです。「工具と材料との接触点により出来上がる包括形状=製品形状」となります。
 このように書くと難しくなりますが、身近な例で例えると分かりやすくなります。皆さんはカッターを使って鉛筆を削った経験がありますか?まさにそれと同じです。
 図2に鉛筆削りをしている様子を示します。鉛筆を削るとき、カッターを鉛筆に押し当ててテーパー上にカッターを動かします。その後鉛筆を回転させて再度テーパー上にカッターを動かす…これを繰り返すと思います。そうすることによって、カッターと素材との接触点により出来上がる包括形状は円錐となり、この円錐形状はそのまま鉛筆先端の形状となります。これがものを削って形状を成形するときの原理です(ちなみに,専門用語では「母性原理」といいます)。
  図2 切削の原理(鉛筆削り)
 さて,削ってものをつくるというイメージは理解してもらえましたか?では、CAMの本題に入っていきます。
 削ってものをつくるときには、その形状に併せて工具を動かします。この動きはそのまま形状に直結するので大変重要です。そこで、CADにより作成されたCADデータを活用して工具が動くための正確な位置情報を得なければなりません。これが「CLデータ」とよばれるものです(前回の奮闘記を参照してください)。
 さて、CLデータができたと仮定します。このCLデータは工具の位置情報ともいうべきものであるため、このデータのみではまだ削るためのプログラムは完成しません。実際にものを削るときには、使用する工具、削る材料の材質、工具の回転速度、工具の切削速度、加工プロセスなど様々な観点から検討をし、それら検討結果とCLデータを有機的に組み合わせなければ加工は行えません。そして、それらの総合としてできあがるのがNCデータです(図3)。
 NCデータができあがるまでのプロセスはお分かりいただけましたでしょうか。では、CAMとは何か、となりますと、これは今まで説明したプロセス全体をシステムとして行うことができるものとなります。ひとことで説明すると、「CADデータからNCデータを自動的に作成することができるシステム」といえます。

3.実際の処理風景

 それでは、実際にCAMによる処理風景をご紹介します。図4は、Gibbs CAM(Gibbs and Associate 社)というCAMソフトによる処理風景です。対象としている製品は、前回紹介したCADデータを活用しています。図中、オレンジ色の線が製品上部に見えます。これが工具の移動軌跡であり、CLデータを表します。このほかにも、色々な加工条件(速度、切込み量、加工プロセス)を設定することによって、NCデータを作成します。

  図3 NC加工と鉛筆削りの
対比
  図4 CAM処理の様子
(Gibbs CAM)

 大変簡単でしたが、CAMの紹介を以上で終わります。現在のものづくりには、前回紹介したCADと同じぐらいCAMも重要視されており、今後はコンピュータ技術の発展に伴ってさらに多くの場面での活用がされると思われます。
 次回は、いよいよ最終回「NC工作機械で加工をしよう」予定しています。ここまで色々と作成してきたデータを使って実際に製品を加工します。