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本との出会い方・触れ合い方を楽しむ会

京都の個性的な書店を見学してきました。
 我々は何か新しいものや得体の知れない事にであったとき、まず分類をしようとします。それは生物か?、生物なら動物か植物か・・・・といった具合。ところでその分類法というのは一つでしょうか?あまり話を広げてもしょうがないので、話を動物に限ります。生物学の本をみれば、動物は界、門、綱、目、科、属、種といった具合に次第に細かく分類される、といった分類法が書いてあります。この基本的にリンネの分類に基づく方法は広く使われているので動物の分類というと、なんとなくこれに限るような気がします。ところで、ボルヘスというアルゼンチンの文学者によると、古代中国では動物は次のように分けられていたとか。

「動物は次のごとく分けられる。
 (1)皇帝に属するもの。
 (2)香の匂いを放つもの。
 (3)飼いならされたもの。
 (4)乳のみブタ。
 (5)人魚。
 (6)お話にでてくるもの。
 (7)放し飼いのイヌ。
 (8)この分類自体に含まれているもの。
 (9)気違いのように騒ぐもの。
 (10)算えきれぬもの。
 (11)駱駝の毛のごく細の毛筆で描かれたもの。
 (12)その他。
 (13)いましがた壺をこわしたもの。
 (14)とおくから蝿のように見えるもの。」

(ミシェル・フーコー「言葉と物」より)



・・・・絶句するほどわけわかんないです。とはいいながら、なんか面白くないですか?人魚がいるわ、放し飼いのイヌはいるわ、果ては、「この分類自体に含まれているもの」などという卓袱台返しみたいな分類項目まであります。要するに、動物の分類といった、常識的には特段問題のないようなことでも見方を変えればとんでもなく面白いことになりうるということではないでしょうか。
 本の分類でも同様の事がいえます。現在図書館等で広く使われている分類法は「日本十進分類法(NDC)」といわれる方法で、本の検索や探索において大変便利なものです。参考のため概略を述べると、まず、以下の0から9までの10個の一次区分(類)わけし、

0 総記; 1 哲学・宗教; 2 歴史・地理; 3 社会科学; 4 自然科学; 5 技術; 6 産業 ;7 芸術; 8 言語; 9 文学

 更に2次区分は(綱)、3次区分は(目)と分類していきます。その結果、例えば物性物理学であれば 428 といった数字が割り振られる。図書館の本の背表紙にこういった数字が記入されたラベルを見た覚えがある人もいるでしょう。考え方としては、上述の動物や植物の分類法と同じことです。さて、この分類法は大変便利かつ効率的ですが、本の分類や区分け法はこれに限るのでしょうか?古代中国の動物分類法に対応するようなことも時には面白いし、思わぬ発見があったりするのではないでしょうか?

 このような従来法ではない方法で本を分けて陳列している本屋さんが最近多くなってきています。その背景には本が売れないこと、ネット販売が急速に伸び実店舗を構える本屋の売り上げが落ちていること、といった事情もあるのでしょうが、それゆえに工夫を凝らす本屋さんが増えつつあり、その本棚を眺めるだけでも結構面白かったりします。
 前置きが大変長くなりましたが、「本との出会い方・触れ合い方を楽しむ会」は、本に興味を持つ学生の集まりで、工学部及び教育地域学部の学部生、院生数名により構成されています。附属図書館において棚作りなどを行う事もあることから、上記のようなちょっと変わった本屋さんの書棚構成を実際に見てみたくなったとのこと。残念ながら福井にはそういった本屋が見当たらなかったので京都まで足を伸ばしました。その際に同行いたしましたので、活動報告ならびに感想を簡単に記述いたします。

 2013年9月4日に、学生6名(工;5名、教育1名)、図書館職員1名、工学部教員1名、更に書店勤務の経験もあり本について該博な知識を有しておられる学外講師1名の総勢9名で、京都にある「恵文社一乗寺店」と「ガケ書房」という本屋さんの見学に行ってきました(なお、学外講師の方には昨年福井大に来ていただき附属図書館にて読書ワークショップを行っていただいたこともあります)。恵文社は小さいながらも比較的有名な書店で、イギリスの「ガーディアン」が「世界の本屋ベスト10」という企画を行った際に第9位にランクインしたこともあります。本の並べ方も独特で、恵文社のサイトから一部引用しますと、「考えるヒント」、「暮らしの本」、「本を開いてあの頃へ」、「ねこづくし」といった具合(もちろん、「とおくから蝿のように見えるもの」や「いましがた壺をこわしたもの」ほど破壊的ではありませんが)。他方のガケ書房についても、車が店に突っ込んでいるように見せた外装を行うなど外見からして変わっております。本も新刊書と古本を等価に配置する、分類もあるのやらないのやら、といった具合。両書店の内装や本の並べ方の具体的なことがらについては言い出すときりがないし、教育とは直接にはつながりませんので詳述はやめておきます(最近は各種メディアに取り上げられてますので興味ある方はそちらをみてください)。

 読書教育という観点から特筆すべき事は、両書店において、学生は夢中になって本を選んで読んでいた点でしょう。実際、大変熱心に本を見ていますので店を出るタイミングがつかめず、当初予定した時間よりも相当ながく滞留いたしました。これは予想外の結果でした。一見関係がなさそうな本が隣りあっているので思わぬ発見があり、ひとつの本棚を見るだけで十分時間がかかること、他の棚を見た後に来るとまた違う本が目に付き、宝探しのような楽しみ方ができること、などの理由で長時間いても飽きないようです。これらのことから、今回参加した学生は、同じ本でも並べ方ひとつでまったく異なった様相を示しうることを体験的に習得したことでしょう。ただし、その並び方を楽しむためには一定の知識が必要な場合もあります。ふだんあんまり外国文学を読まない学生が、フランス文学や英米文学など地域も時代も混在した配置を見ても、その意図をつかむのは難しい。そこで知識を持ったガイドが必要になります。今回の場合、さいわいにも先述の学外講師の方から書棚の配置について的確な説明をしていだたき、その結果興味をもった学生もいました。今後、このような企画を行う際には、ガイド的役割を果たすものが必要だと思います。

 以上述べたように、本に興味を持たせるような環境にあれば学生は自主的に本を発見的に探索し、自らの興味を深化させうることがわかりました。今後は今回の経験を活かし、図書館での書棚つくりや生協書籍部での活動を積極的に行っていっていただきたいと思います。

(工学研究科物理工学専攻 菊池彦光)